腐男子先生!!!!! について

ごく普通の腐女子と、ごく普通の腐男子が出会った。イベント会場で。
ただひとつ、ごく普通と違ったのは、二人は高校の教え子と教師だったのです。

 

ここは小説家になろうにて連載中の小説『腐男子先生!!!!!』のarchiveサイトです。書籍化情報などまとめてあります。

 

https://ncode.syosetu.com/n2101dp/

 

2018年春、本編連載終了

ただいま番外編を不定期連載中です。レスポンス等遅め。

 

腐男子先生!!!!! (ビーズログ文庫アリス)

腐男子先生!!!!! (ビーズログ文庫アリス)

 

ビーズログ文庫アリスさまより書籍化しております!!

2巻も発売!!!

 

腐男子先生!!!!!2 (ビーズログ文庫アリス)

腐男子先生!!!!!2 (ビーズログ文庫アリス)

 

 

常にドヤっている先生を目印にしてください!!!!!!!!!ピカピカやな!

 

また、コミカライズはジーピクシブさまにて!

comic.pixiv.net

 

書籍イラストレーターの結城あみの先生によるコミカライズです!

 

腐男子先生!!!!! 1 (ジーンピクシブシリーズ)

腐男子先生!!!!! 1 (ジーンピクシブシリーズ)

 

 コミックス2巻も、絶賛発売中です!!!

 

腐男子先生!!!!! 2 (ジーンピクシブシリーズ)

腐男子先生!!!!! 2 (ジーンピクシブシリーズ)

 

 

【再録】腐男子先生!!!!!文庫コミックスW2巻連動特典/オーディオ脚本

腐男子先生!!!!!」コミカライズ4巻発売を記念して、

W2巻連動特典でのオーディオドラマ脚本の公開を許可いただきました。

オーディオドラマの公開は終了しておりますが、

読者の皆様にログとして楽しんでいただけますように。

関係スタッフの皆様、出演声優の皆様には、改めて、御礼申し上げます。

なお、この脚本は、私の手元にある最終稿から、WEB再録にあたり改稿・編集が加えられています。ご了承下さい。

なお、当時のアフレコレポートはこちら

それでは皆様、お楽しみくださいませ。4巻もよろしくね!!!

  

腐男子先生!!!!! 4 (MFC ジーンピクシブシリーズ)

腐男子先生!!!!! 4 (MFC ジーンピクシブシリーズ)

 

 

 朱葉ナレ

ごく普通のイベント会場で、ごく普通の同人誌を挟んで、
ごく普通の腐女子、早乙女朱葉と、ごく普通の腐男子、桐生和人が出会った。
ただひとつ、ごく普通と違ったのは、二人は同じ高校の、教え子と教師だったのです。


(タイトルコール)
腐男子先生!!!!!』オーディオドラマ
「先生、恋の仕方を教えて下さい!」


(生物準備室のノックの音)
朱葉「先生、早乙女でーす」
桐生「開いてますよ」
(ドアを開ける音、朱葉歩みを進めて)
朱葉「失礼しま~す。って、うわ。いつにも増して散らかってますね、机の上。……これなんのアンケートですか? 授業じゃないですよね」
桐生「先日の学校説明会の中学生アンケート。当番で受け持ったんだが、打ち込むだけでも量が多くてな……」
朱葉「学校説明会か~。懐かしいですね。なになに……? 『先生が格好良かったから、受験しようと思いました! 受かったら、恋の仕方を教えて下さい!』だって。ひゅー!
桐生「ひゅー、じゃありません。まとめて中学校に返答をする身にもなって欲しい。進路を決める大事な説明会なんだから、もっと聞くべきことがあるだろう」
朱葉「格好いい先生がいるから、ってのも立派な志望理由なんじゃないですか? せっかく先生顔だけはいいんだから。ワタシモ先生ニ恋ノシカタヲオシエテホシイ~(棒読み
桐生「……言ったな? 本当に言ったな? 早乙女くんの頼みとあれば仕方がない! この俺がみっちり教えてやろう! 恋の仕方というやつを!
朱葉「……へ?」

 

(ホワイトボードを用意してペンを走らせる音。ホワイトボードを叩いて)
桐生「まず大前提として! 恋をはじめるためには登場人物が必要だ
朱葉「登場人物……」
桐生「属性はいかようでもいいだろう。幼なじみからはじまり敵同士、前世からの因縁、ライバルはいわずもがな、年の差、身分差など障害、格差はあればあるほど燃え上がる。なお先生は主人公受けが特に好きです
朱葉「わたしは黒髪受けが好きですね。属性でいうと太陽と月って感じのふたり」
桐生最高だ! そう、そんな登場人物は存在するだけで尊いものだが、物語とは二人が出会うことではじまるのだ。恋はひとりにしてならず。二人以上の心の触れあい、高ぶり、そこから恋が生まれるのだから! 魂の片割れとして生まれ落ちてもいいし、決して交わるはずのない二人が交わってしまうのもよし! ちなみに早乙女くんが好きな出会いシチュを聞こう!」
朱葉「えっいきなりですね。好きな、出会い……? 普通に転校生シチュとか好きですけど、それよりこう、敵に襲われたりした時に『下がってろ!』とかって侠気見せられるのにぐっときますね」
桐生素晴らしい! それこそまさに出会いの一言だと言っていいだろう。その瞬間は恋を自覚していなくても、後に何度でも思い出すことになるのだからな」
朱葉「確かに何度でも思い出しますね……。ちなみに先生、一番最初にわたしにオタバレした時、言ったことって覚えてますか?」
桐生「忘れられるはずがないだろう!『逃げるは一時の恥、逃すは一生の後悔』
朱葉何度聞いても最低ですね……
桐生「ちなみに俺は出会いシチュとして、出会った瞬間刃を交わらせるやつが好きです。殺し合い、略して──恋
朱葉「普通に考えて略しすぎでは」
桐生「まあどんな出会いであっても俺達は脳内によってあらゆるパロができるわけだが。運命の二人は結局どんな出会いであっても恋に落ちると相場が決まっているわけだ
朱葉「でた。先生の好きな運命……」
桐生「そう!! 運命! 恋を導くのは運命、運命によって裏付けされるのが恋、スケールは大きければ大きいほどいい、宇宙というものは愛しあう二人のために用意されたといっても過言ではない。現代において人間の想像力はもはや運命を目視できる域にまで達した! 運命は見える! 見えるということは知覚出来るということ、知覚出来るということは創造出来るということ、つまり! 運命は……つくれる!! ここ、テストに出ます
朱葉「どこのテストに?」
桐生「俺の心のテストだ! 運命はつくれる。これ以上力強い言葉があるだろうか。特に薄い本において! 俺達はあえて火のないところに煙を立てる! 二人のためなら村も燃やす! 因縁とは恋であり執着とは恋であり偶然もまた恋である! 同じコマに入ることによって教会が建つ! たまに同じコマに入っていなくても建つ!
朱葉安い、早い、みたいな話ですね」
桐生しかも美味い! 俺達はなんといい時代に生まれたんだろう! こと妄想の世界において、俺達はあらゆるしがらみから解き放たれ自由を手に入れた! しかも早乙女くんは同人作家ぱぴりお先生としてその妄想を出力する類い希なる能力を持ってうまれ、俺はその本を購入するという僥倖にあずかることが出来た! 同時代同時期同ジャンル同カップリングにおいて俺達が出会えたこと、これもまた運命と言ってもいいのではないだろうか!?」
朱葉「え、そういう方向に話を持っていきます? 今そういう話でした? 大丈夫ですか? 先生生まれつきちょっといい声帯をもらったからって調子にのってませんか?」
桐生「調子にも乗るだろう、今日は声の調子も最高にいい……今なら刀を持って立ち回ったり劇団の主演をはれたりバレーをしたり出来そうな気さえする」
朱葉先生が今一番するべきことはアンケートの打ち込みですけどね
桐生(机を叩く音)現実が地雷です!!」
朱葉「それは観念してください。『地雷を踏んでまだ息があるのか? 苦しいだろうから今すぐとどめを刺そう』って言ってたの先生ですよ」
桐生「その通りだ。ここは戦場だぞなぜ地雷がお前を避けてくれると思ったのか……。しかし現実という地雷など些末な問題だ。たとえ身体が四散しようとも、俺にはその先、次のオンリーイベントにおけるぱぴりお先生の新刊が待っているのだから!」
朱葉「待ってねぇよ。わたしがこれからつくるんだよ」
桐生「というわけで次のイベントの新刊、主人公が深い傷を負ったことにより彼に思いを寄せるイケメンが目をそらし続けていた己の恋心に気づいてしまうも主人公の負担になることをおそれ、ぎこちないながらもこれまでの関係を続けようとするが、すでに一度知ってしまった喪失の恐怖から逃れることが出来ず、思わずその華奢な身体を抱きしめてしまう! 最高のあれ! どうぞよろしくお願いいたします! 三冊買う
朱葉「待って???? まだネームを描き終わってもいない新刊のあらすじ勝手につくらないでくれます? しかもすごくありそうなのがいや。そもそもこの流れって恋をつくってるのわたしじゃないですか!? 先生が恋の仕方を教えるやつどうなった?」
桐生「いやあ、この間SNSにあがった3ページネーム最高でした……まさに……神かよ……」
朱葉「だから待って? 今ファイル開いたよね? なんで開いた? もしかして先生わたしの落書きネーム印刷してない? あまつさえファイルにとじたりしてない?」
桐生電子データなど虚像だ、何度だって言おう、紙こそ至高! 形あるものしか俺は信じない!
朱葉「燃やしていいかな? かな?」
桐生「違うこれは、これはバックアップなんだ! 早乙女くんが不測の事態によりネームを紛失するリスクヘッジとして」
朱葉「誰も頼んでませんから!! いいからとっとと先生はこの形あるアンケートを電子化してください!」
桐生「うう……やるしかないのか……」
朱葉「やるしかありませんよ。わたしはネームの続きをやりますから。お互い頑張りましょう?」
桐生「俺の仕事が進むにつれてぱぴりお先生の新刊ネームも進むということか……。悪くない……悪くないぞ……。あっ、あと無料配布ペーパーの内容で悩んでいるんだったら俺は脈絡もなくはじまる王様ゲームのシチュエーションが好きです!
朱葉悩んでないしリクエストも受け付けてません! そもそもまだ無料配布まで手が回ってませんから!
(ため息をついて)なんかもう、先生を見てると、この先生と恋の仕方があるなら私の方が教えて欲しいって気持ちです」
桐生「ここまで熱く特別授業をしたのにわかってもらえないとは残念だ。ぜひ今度改めて補修をさせてもらおう」
朱葉「はいはい。次はなんですか?」
桐生「そうだな……。じゃあ、イベント会場からはじまる神絵師との恋について?」
朱葉「……運命をつくるにしても、ちょっと強引すぎるんじゃないですか?」


先生は、恋の仕方ならいくらでも教えてくれるけれど。
わたし達に恋がはじまるのかどうかは、どんな運命の神様でも、知らないことだ。

 

イケメン☆初体験(お年玉小説)

 

イケメン☆初体験(お年玉小説)


 朱葉は大学生になって、たくさんの「初体験」を済ませた。どれも印象深いものであったけれど、けれど、それでもこの体験は、とびきり強烈なものになるのだろう、とはじまる前からわかっていた。
 強めのブザーの音が鳴ると、場内の空気が変わった気がした。

「先生、やっぱり、わたし、ちょっと、怖いかも……」
「大丈夫だ」

 膝の上の手を握る、桐生の手も心なしか震えている気がする。

「俺がついているから──!」

 冬の入り口。都内某所にて。
 今日の朱葉の初体験は、はじめての、「イケメン舞台」であった──。

 

 はじまりはささいなことだった。
 SNSでまわってきた、人気乙女ゲームの舞台化告知、それに対して「ちょっと興味あるかも……」と朱葉が呟いた、それが運の尽き。
 勤務時間中にもかかわらず速攻桐生から連絡が入り、「今夜迎えに行くから。話がある」とあまりに真剣な申し出。
 車に乗り込んだ瞬間、切り出された。

「どこまで……本気?」

 いや、どこまでもここまでもねーですけど、と朱葉が答えた。
「ちょっと行きたいって言っただけじゃないですか! 先生怖い!」
「ちょっと行きたい! それが! それが入り口でいいじゃないか! 俺も行きたい!!」
「結局先生が行きたいんじゃないですか!!」
 いつもオタクコンテンツに関しては金にものを言わせて一歩先ゆく桐生であるので、舞台観劇が初めてではないのだろう、と朱葉も思っていた。
 けれど桐生もそれほど多くの経験があるわけではないらしい。(ないとは言っていない)
 基本は映像で。最近は配信なども多いので。
 もちろん現場にまさる面白さなどこの世の中にはないけれども、「この沼は、あまりに深すぎる……」というのが桐生の言だった。
「でもわたしなんかが行っていいんですかね? ゲームは面白いけど、にわかみたいなものだし……」
「この世ににわかじゃなかった専門家なんていないし、行きたい舞台に行ってよくない人間なんかいない!!」
「声が大きい! チケットもとれないんじゃないですか!?」
「取れないチケットは、ない……!」
 ぐっとハンドルに力をいれながら桐生が血を吐くように呟いた。
「……ない、と言いたいところだが、もちろん取れないチケットはある……。特に今回は主演があの桂くんだ」
「けいくん?」
 親戚の子か? と朱葉が思う。
「葉山桂」
「あ、聞いたことある気がする~~。フォロワーさんでもめっちゃ好きな人がいて」
 朱葉がスマホを取り出し検索をかける。「あ、かわい」と小さく呟けば、「そう!!」と隣から返事があった。
「可愛いんだ桂くん! 葉山桂! あのわんこ系の純粋さの中に、ちら見えする情念がたまらないんだ……! さすがは一度はアイドルとして芸能デビューを果たした男、舞台の世界に来てもその輝きはひときわということだ……!」
「くわしい」
「今一番チケットがとれない男のひとりでもある。そんな彼の満を持しての主演舞台、しかも原作は今一番波が来ている乙女ゲーだ。このあいだも雑誌の20ページにわたる特集記事が圧巻だった。あの時にさらなる情報アリの文字、まさに俺達は今、あのゲームのさらなる先に……!」
「葉山くんの話どうなりました?」
「そう!! その主演の葉山桂に加えて今回の座組、とんでもないんだ」
「とんでもないとは……?」
「……顔が、いい」
 と、黙って社会人コスをしていれば顔だけはいい桐生和人もうすぐ30歳が言う。
「誰も彼もたまらん顔の良さだ!!! 眺めて見ればわかる!」
「へ~。本当にビジュアルがいいですね。顔採用?」
「顔がいいだけで選ばれる価値はある!! 選ばれたのは顔でした!! 一向に構わない!!」
「はいはい、わたしあのゲームだと、チャラ男くんが可愛いと思ってたんですよね……あ、役者の子も可愛い~!」
「高良涼!!!!! 俺もその子は気になっているところだ最近大きい舞台に出始めている子だが前作の吸血鬼ものの演技は光るものがあった、彼は、彼は顔だけじゃない子だ……!」
「前作……」
 どこまで調べたのだろう、と思ったけれど聞くと長そうなのであまりつっこまないことにした。
「どうだ! 行ってみたくなっただろう!! 俺はなった! 特に今回は舞台の中でもアイドルもの! 初めて見るには刺激が強すぎるかもしれないが、どうせ死ぬなら盛大に死んだ方がいい!!」
「なんで死ぬこと前提なの!? いやそれアイドル関係ある!?」
「ある」
 桐生が整った横顔で、眼鏡を押し上げながら言った。

「アイドルは……すごいぞ、朱葉くん」

 何がすごいのかと聞けば、「見ればわかる」という返事。そしてあれよあれよという間に、見ることが決定していたのだった。

 

 イケメン舞台の「初体験」として桐生が選んだのは、その舞台の初日だった。
「初日って……特に激戦だったんじゃないんですか?」
「特に激戦だった。しかし初日には初日の良さがある」
 チケットを握りしめながら蕩々と桐生が語る。
「全通を含めた複数回観劇であれば、また観劇スタイルがかわってくるだろうが、たった一度きりの観劇であるなら俺は千秋楽よりも初回を押していく。なぜなら客席もまた舞台装置だからだ」
「客席もまた舞台装置」
「俺達はそこに現れる世界に一喜一憂し息を呑む。時に笑い時に泣き、生の感情をぶつけあうことになるだろう。それこそ拍手のタイミングもアドリブの入り方も、初回であれば噛み合わないきらないかもしれない。しかしその不協和音をこそ俺は愛したい!!! そして何より……!!!」
「何より?」

「初回に入っておけば、それから先に増やせるチャンスが一番多い」

 桐生は常に未来にチャンスを狙う男だった。
「とっていただくチケットですし、先生の行ける日に合わせますけど……」
 会場に近づきながら、そこに集まってくる人の気合いの入り方に、朱葉は驚いてしまう。
「え、みんな……みんなすごくないですか!?」
 女の子が、可愛い。
 パーティとは言わないが、爪の先からメイクまで、きらめき方が違う。
「そりゃすごかろう。なんてったって客席降りのあるアイドル舞台だからな。客の気合いの入り方が違う」
「客席降り……? あ、なんか自信なくなってきちゃった……」
 場違いかもしれない、と朱葉がぐるぐるしていると、ぽんぽん、と背中を叩かれた。

「いつも可愛いから、大丈夫」

 おっ? と朱葉が思ったが、「それに今回の座席は残念ながら通路席とはいえない後部座席だしファンサは俺がいただく」と続けたので、いつものように台無しだった。

 

 満席となった客席は、おさえこんだような興奮と、不安と期待に満ちた囁き声に満ちていた。
「当たり前だけど……女の子ばっかりですね」
「いや、そんなことないな。ほらあの、前通路の席」
「あ、ほんとだ! 男の子がいる!」
 斜めから横顔と後ろ姿しか見えなかったけれど、朱葉と同じくらいだろうか、若い男の子が少し緊張した顔で座っていた。
「彼女の付き添いとか……?」
「いや、あれは違う」
 目を細めながら桐生が淡々と告げる。
「まず鞄が大きい。あれは間違いなくパンフレットが入ることが想定されているサイズだ。加えて通路の邪魔にならないように配慮されて置かれているし、何より座り方が深く可能な限り背中を背もたれにつけている」
 あれは、本命の戦士の背中だ────。
 そういうものか? ただの言いがかりでは? と朱葉が思ったが。
「だとしたら、好きな役者さんとかいるんですかね」
 なんの気なしに、朱葉が言う。
 そうして開演前のベルが鳴り、緊張が最高潮に達したところで、幕が上がり、朱葉の「初体験」が、はじまる……。

 

 心臓がもたない、と思うほどの長さであったし、かと思えば一瞬だった。
「め、めちゃくちゃ楽しかった……!!」
 帰り際にもまだ、心臓がはねていた。「アイドルはすごい」という桐生の言葉は、垣根なしに本当だった。間違いがなかった。
 ただでさえ美しい人間が、歌って踊るのだ。しかも二次元から抜け出した、そのままの姿で! そしてなにより……。
「先生、見た?」
「見た」
 ぐぐっと両の拳をにぎりしめて、朱葉と桐生が言う。

「あの男の子、推しからファンサを、もらってた…………!!!!」

 あれは絶対、絶対そう!! と思わぬところで二人、盛り上がってしまった。アイドルはすごい。ファンサもすごい。そして、そのファンサが、好きな人に届くって、素敵なことだ。
(いいもの、見たなぁ……)
 何もかもが初体験。けれど、最高の初体験だと、朱葉は思った。
 冬の日、ふわふわと二人で歩きながら、世界がキラキラ輝いて見えた。

 

 

(一足早いですが、2019年お年玉小説となります!

今回のSSはコラボ……というよりささやかなファン創作となりますが、

麻実くんはガチ恋じゃない! - pixivコミック | 無料連載マンガ

をお読みの方に、より楽しいものとなっております。

ひととせ先生、ありがとうございました! これからも麻実くんの推し活を応援しております!!)

 

 

緊急!オーディオ収録イベント発生!!!!!!(腐男子先生!!!!!アフレコレポート)

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某月某日。

私は慣れないオーディオドラマの脚本を書きながら、悩んでいました。

(おかしい……)

自分で書いた台詞を読み、ストップウォッチを見ながら。

(おかしい、桐生先生の台詞を増やせば増やすほど、早口になるばかりで尺が短くなっていく……)

正しい尺とは? 台詞量とは?? と混乱しながら仕上げたことを、よく覚えています。

 

そして、月日は経ち、某月某日。

都内某スタジオにて。

腐男子先生!!!!!初のオーディオドラマ収録ということで、私達は簡単な挨拶を済ませ、声優さんに対して、まずはキャラクターのイメージ説明から入りました。

腐男子先生! こと桐生和人役は田丸篤志さん(「刀剣乱舞」(一期一振役)「A3!」(月岡紬役)「ハイキュー!!」(国見英役)など)

ぱぴりお先生こと早乙女朱葉役として、花守ゆみりさん(「アイドルマスターシンデレラガールズ」(佐藤心役)「ゆるキャン△」(各務原なでしこ)など)

お二方とも、先に原作に目を通していただいていたのですが、私からイメージを説明するということで、朱葉さんは、「可愛らしくもキレッキレに」そして桐生先生は

「劇場型オタクなので……」

言いながら自分で思いました。

コイツ、何を言ってるんだ?

とにかく、自分で盛り上げ、勢いをつけるオタクですので、大変かと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします……。

そんな全然伝わらないイメージを伝え、収録に。

まず、ブースから聞こえる軽い試し読みが、めっちゃいい声。

先生、めっちゃいい声。(大事なことなので)

この声が……この声が……これから……!!!! と、私は自分で書いた台本を持って震えました。

収録がはじまると、まず、朱葉さんが、めちゃくちゃに可愛い。

「えっっっこんなに可愛くて大丈夫ですか?!」と内心めっちゃ焦る。内心めっちゃ焦ったけど、結城先生の描かれる朱葉さんを思い浮かべ、

「あ、大丈夫めっちゃ可愛いな??」

と納得しました。めっちゃ可愛いです。めっちゃ可愛いので、皆さんどうぞ、めっちゃ愛でる用意をしておいて下さい。

そして先生なのですが、めっちゃすごいです。めっちゃすごい。

語彙が死ぬ。

参加していたとあるスタッフさんが、ずっと「尊い」しか口にしなかったのがとても印象的でした。(ありがとうございます)

オーディオドラマです。今回は、不慣れながら、私が脚本を書き下ろさせていただきました。自分の書いたものを、声優さんに朗読していただく……しかも目の前で……恥ずかしさで死ぬのでは?(中身は置いておいて)と思っていたのですが、そして確かに、最初一瞬「めちゃくちゃ恥ずかしい!!」と思ったのですが、

読み始めてすぐに思いました。

このひどいホンは私が責任を持ってチェックせねば、と。

そこからは心を無にし、それこそ瀧のような美声を浴びながら脚本をチェックしていたのですが、途中何度かあまりのひどさに吹き出しました。

あんまり……あんまりないことです……。自分で書いたのに……。冷静に見ていたはずなのですが……。

本当にコイツ、何を言ってるんだ……?

本当に……本当に……こんなホンを書いたのは……誰……?

朱葉さんも、桐生先生も、決して簡単な台詞ではなかったと思うのですが、二人とも、プロ中のプロ。ものすごく鮮やかに、読み上げていただきました。

本当に本当にすみませんありがとうございました!!!!!

なお、今回は書き下ろし脚本となっておりますが、

これまでにも何度か出てきたような台詞をふんだんに入れ込んでみました。

これは使い回しではありません。

桐生先生のサビです。

その辺り、ご了承いただき、原作のあの台詞もこの台詞も! 楽しんでいただけたら幸いです。

自分の作品なのに、こんなにいっぱい笑わせてもらって、本当に、人生の中でも指折りの、ハッピーな一日でした。

ぜひ、今回の特典をゲットしていただき、あなたにも、ハッピーな気分になっていただけたら嬉しいなと思います。

田丸さん、花守さん、それから結城先生をはじめ、関わってくれたすべてのスタッフの皆様、本当にありがとうございました!

こんないい声帯をもらって、朱葉さんも、桐生先生も、きっと来世まで、調子に乗り続けることでしょう。

腐男子先生!!!!!文庫本1巻書店特典再録

文庫1巻楽天books様特典ペーパーの再録です!
ご購入いただいた方ありがとうございました。

【語彙、死す。】


 その日、早乙女朱葉が生物準備室に行くと、書類をいれてあるカゴの一番上
に、ビニール袋に包まれた文庫本が置いてあった。
「…………?」
 よく見慣れたアニメショップの袋だったものだから、首を傾げて手にとった
ら、「おっとー!」と桐生和人がデスクから指をさしてきた。

「拾った! 今拾いましたね早乙女くん! 拾得物! そして持ち主が権利放
棄したため自動的にその文庫本は貴方のものになりました!」

「はぁ……」

 テンションの高い言葉に呆れながら「……で? その心は?」と聞けば。

「先週末に出た神の新刊です。是非もらって欲しい」

 なんのことはない、神本の布教だった。
 ありがたくもらうけれど(それでも教師から売り物をもらうわけにはいかな
いので、あくまでも拾得物という体で)呆れながら朱葉が言う。

「……先生って、いつも何冊買ってるんですか?」
「まるでいつも何冊も買ってるような言い方しないで下さい」
「じゃあこの本は何冊買いましたか?」
「今のところ三冊。最速通販、店舗特典、加えてフェア書店のサイン本。早乙
女くんにあげたのは店舗特典用でした」
「そんなに買って……どうするの……?」

 すごく純粋な興味として、聞いてしまう。本屋でも開くつもりだろうか。

「どうするかは買ってから考える! ひとつ言えるのは今! ジャストナウ!
 こうして! 早乙女くんの手元に行くことにより! 有効な活用がなされて
いるという事実!!」

 びしっと言ったあとに、「そうでなくとも!」と続いたので、朱葉は身構え
る。
 こいつ、絶対長くなるぞ。

「そうでなくとも! 本というのは常に劣化と喪失の板挟みにあっている! 
早乙女くんのように若くてはわからないかもしれないが、十年同じ本を本棚に
いれていれば褪せる、焼ける、汚れることもあり得るだろう! そして神本で
あれば持ち運び、貸し出され、折れ、破れの危険性は常にともなう! しか
し! 汚れや痛みを気にして本棚の肥やしにすることこそ愚の骨頂、俺達が愛
したものは文化財ではない、消費してこそのエンターティメントだ! 汚れた
時、痛んだとき、それは買い直しのチャンスと思うべきだ、愛したエンタメに
正当に金を払えるチャンス! しかし! もしもその時に、絶版や在庫なしの
憂き目にあったとしたら!? これは神本への正当な報酬であり将来への担保な
のだよ。以上早乙女くん、質問感想を受け付けます」

 思ったより長かったしこれからも長そうなので朱葉は早々にケリをつけるこ
とにした。

「アレレー? この本目次からやばない?」
「そうなんですよ~~神かよ……」

 語彙、死す。
 オタクはすぐに死ぬように出来ているので、今日も生物準備室は平和だっ
た。

 

腐男子先生!!!!!書籍化2巻発売特典など

文庫本2巻が発売されます! 

腐男子先生!!!!!2 (ビーズログ文庫アリス)

腐男子先生!!!!!2 (ビーズログ文庫アリス)

 

 基本はなろう本編から第二章、ただし、よりひとつの本として区切りをよくするために、アレンジが加えられています。ささやかな違い、と思っていましたが、楽しんでいただけたようで、嬉しいです。

書店特典はアニメイトさまにてSSペーパー。

なかなかたくさん出来なかった、「漫研部活動のひとこま」です。

そして、同時期発売コミカライズ2巻との連動特典があります!

 

腐男子先生!!!!! 2 (ジーンピクシブシリーズ)

腐男子先生!!!!! 2 (ジーンピクシブシリーズ)

 

 こちら、2冊の帯情報より、

特別オーディオドラマを聞くことが出来ます!

そう、声帯の!!!実装です!!!!!!!!!!

詳しい聞き方など詳細は、

ビーズログ文庫アリスさまのホームページよりご確認下さい。

こちら、帯情報のため、紙書籍のみの特典となります。

また、文庫版電子2巻には、特別書き下ろしSSが収録されています。(どのショップで買ってもついてきます)

ちょうど年明けからはじまる文庫2巻の直前、大晦日の、大人のオタク達。

文字数制限なしということで、長めに書かせていただきました。

楽しんでいただけたなら、幸いです!!!

どうぞよろしくおねがいいたしま~す!

書籍化その後のご報告と、書籍化作家のみなさまへ

腐男子先生!!!!!! は2016年の秋から連載をはじめ
2017年6月に書籍化をしていただきました。

腐男子先生!!!!! (ビーズログ文庫アリス)

腐男子先生!!!!! (ビーズログ文庫アリス)

 

 はじめての書籍化で、ただ嬉しくて、書籍化と同時にコミカライズも開始していただくはこびとなり、
文庫のイラストレーションとコミカライズを、同じ結城あみの先生にしていただくことになりました。
本当に幸福な書籍化で、楽しく嬉しかった思い出でしかないです。
友人も、読者さんも、みんな祝福してくれました。
でも、すべてをうまくやれたというわけではありませんでした。
発売から一ヶ月後、担当さんからご連絡をいただきました。
それは、「重版ラインに達せなかった」というご連絡でした。それから、担当さんから会社の色々なことを聞き、今後もとても難しそうだということを。
これが……と思いました。
これが、あの、いわゆる、初速というやつで。
これが、一ヶ月のあれこれというやつで。
つまり、だめだったのか、って。
思いはしたんですけれども。……何度考えても、「だめだった」とは思えなかったのです。
足りなかったかもしれない。それはわたしの何かが。
でも、だめじゃなかった。わたしの物語は、楽しんでくれる人も、みんな、絶対だめなんかじゃなかったはず。
せめて、せめてだけれど、わたしは絶対に、「だめだった」というご報告だけはしまい、と思っていました。
わたしはあんまり、「小説家になろう」の世界に相談の出来るような友達はいないのだけれど、それでも、重版ができなかったこと。続刊が出せなかったこと。そのことに心を痛めて、歯をくいしばっている方を見てきました。
だめでしたって、わたしも言ったら励ましてもらえるのかもしれないけど。
言うのは嫌でした。

幸福なことに、とてもとても幸福なことに、コミカライズはpixivコミックにて、とっても素敵に連載が続きました。
わたしはネームをいただくたびに、素敵だな、面白いなって思って。
作画の結城あみの先生は、この連載の最中にも、オリジナルの作品、「ゆびきりばこ」をコミックジーンさんではじめられました。
めっちゃすごい、漫画に対して、ストイックに真面目で、こんな風に言っていいのかなって思ったけど、
あげはさんみたいだなって、ずっと思っていました。
本当に素敵なコミカライズをしていただきました。

コミカライズ版『腐男子先生!!!!!』は本日、1月27日発売日です。
アニメイトとらのあなでは特典もあるよ! わたしは無論すべてゲットする!!!

 

腐男子先生!!!!! 1 (ジーンピクシブシリーズ)

腐男子先生!!!!! 1 (ジーンピクシブシリーズ)

 

 
そして、そしてですね、ちょうど、発売日から数日前、コミカライズの新しいネームをいただくと同時に、担当さんからお知らせをいただきました。
発売から7ヶ月、半年以上です。半年以上、かかってしまいましたが。

 

腐男子先生!!!!! 小説版の、重版のお知らせでした。

 

「そんなことってある?」って思わず言ってしまいました。
一週間で生死が決まるとか。一ヶ月で絶望的とか、いうじゃないですか。
いろんなことが、それはもう仕方が無いって思っているんだけど。
そんなことってあるんだ、って思いました。
もちろん、たくさんの書店さんが、営業さんが、担当さんが、コミカライズの結城先生ががんばってくれて、その結果なんだけど。
あの、ピンクの小さな本が
たったひとりで、ずっと、がんばってたんだな、って思いました。

本当に正直なことをいえば、文庫版の続刊のことは、ちょっとよくわかりません。でも、この奇跡が起きたのだから、絶対ないなんて言えないし。
よければ、楽しむという形で、応援をしてくれたら嬉しいです。

 

でも、結局わたしに、問答無用な力があったら。
こんな風にちょっと恥ずかしい報告なんてすることはなく、発売直後から売れてウハウハになってたはずだし。
感謝の気持ちとはいえ、今ちょっと本当に恥ずかしいんだけど。
この話をしよう、って思ってのは、理由があって。もちろん、すべての応援してくれた皆さんに、お礼がいいたいのと同時に。
書籍化作家の、皆さんにちょっとだけ伝えたかったのです。
わたしも驚くばかりだけれど、奇跡だって、おこらないとは限らないし。
重版がかからなくたって。
続刊が出なくたって。
あなたの物語は、絶対に、だめなんかじゃないって。
わたしは、そう思います。

 

あげはさんの姿も、桐生先生の姿も、すでに結城先生のものなので、最近はあまり描いてないんだけれど、久しぶりに一枚描きました。
感謝してる絵でも、感激で泣いてる絵でもよかったんだけど。
あんまり似合わないから、ふたり、ピースだよ。あげはちゃんのキャラデザほんと可愛い!!!!
これからも、よろしくね。

 

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