腐男子先生!!!!!文庫本1巻書店特典再録

文庫1巻楽天books様特典ペーパーの再録です!
ご購入いただいた方ありがとうございました。

【語彙、死す。】


 その日、早乙女朱葉が生物準備室に行くと、書類をいれてあるカゴの一番上
に、ビニール袋に包まれた文庫本が置いてあった。
「…………?」
 よく見慣れたアニメショップの袋だったものだから、首を傾げて手にとった
ら、「おっとー!」と桐生和人がデスクから指をさしてきた。

「拾った! 今拾いましたね早乙女くん! 拾得物! そして持ち主が権利放
棄したため自動的にその文庫本は貴方のものになりました!」

「はぁ……」

 テンションの高い言葉に呆れながら「……で? その心は?」と聞けば。

「先週末に出た神の新刊です。是非もらって欲しい」

 なんのことはない、神本の布教だった。
 ありがたくもらうけれど(それでも教師から売り物をもらうわけにはいかな
いので、あくまでも拾得物という体で)呆れながら朱葉が言う。

「……先生って、いつも何冊買ってるんですか?」
「まるでいつも何冊も買ってるような言い方しないで下さい」
「じゃあこの本は何冊買いましたか?」
「今のところ三冊。最速通販、店舗特典、加えてフェア書店のサイン本。早乙
女くんにあげたのは店舗特典用でした」
「そんなに買って……どうするの……?」

 すごく純粋な興味として、聞いてしまう。本屋でも開くつもりだろうか。

「どうするかは買ってから考える! ひとつ言えるのは今! ジャストナウ!
 こうして! 早乙女くんの手元に行くことにより! 有効な活用がなされて
いるという事実!!」

 びしっと言ったあとに、「そうでなくとも!」と続いたので、朱葉は身構え
る。
 こいつ、絶対長くなるぞ。

「そうでなくとも! 本というのは常に劣化と喪失の板挟みにあっている! 
早乙女くんのように若くてはわからないかもしれないが、十年同じ本を本棚に
いれていれば褪せる、焼ける、汚れることもあり得るだろう! そして神本で
あれば持ち運び、貸し出され、折れ、破れの危険性は常にともなう! しか
し! 汚れや痛みを気にして本棚の肥やしにすることこそ愚の骨頂、俺達が愛
したものは文化財ではない、消費してこそのエンターティメントだ! 汚れた
時、痛んだとき、それは買い直しのチャンスと思うべきだ、愛したエンタメに
正当に金を払えるチャンス! しかし! もしもその時に、絶版や在庫なしの
憂き目にあったとしたら!? これは神本への正当な報酬であり将来への担保な
のだよ。以上早乙女くん、質問感想を受け付けます」

 思ったより長かったしこれからも長そうなので朱葉は早々にケリをつけるこ
とにした。

「アレレー? この本目次からやばない?」
「そうなんですよ~~神かよ……」

 語彙、死す。
 オタクはすぐに死ぬように出来ているので、今日も生物準備室は平和だっ
た。